福岡高等裁判所 昭和27年(う)1905号 判決 1952年12月04日
控訴人 被告人 松永勝次 外三名
弁護人 山本新 外三名
検察官 安田道直関与
主文
被告人古賀賢次の本件控訴を棄却する。
原判決のうち、被告人松永勝次、同福地実、同古賀善保に関する部分を破棄する。
被告人松永勝次を懲役一年に処する。
被告人福地実、同古賀善保を各懲役八月に処する。
押収にかかる白砂糖合計六千二百二十四斤、黒砂糖合計百九十六斤八十匁の換価金十八万二千八百六円十銭及び生牛皮五頭分の換価金八千百六円は、これを被告人松永勝次、同福地実、同古賀善保から没収する。
原審訴訟費用のうち、証人馬谷正式、同高瀬利夫に支給した分は被告人福地実、同古賀善保、原審相被告人岸川正弘の連帯負担とし、証人田中勝義に支給した分は被告人福地実、同古賀善保の連帯負担とし、証人陳内貞衛に支給した分は被告人福地実、同古賀善保、同岸川正弘、同新ケ江時一の連帯負担とする。
被告人松永勝次に対する本件公訴事実のうち、食糧管理法違反の点につき、同被告人を免訴する。
理由
当裁判所において陳述された控訴趣意は、被告人松永勝次につき弁護人山本新、被告人福地実同古賀善保につき、弁護人今泉三郎同北川定務連名、被告人古賀善保同古賀賢次につき弁護人長崎祐三各提出の控訴趣意書記載のとおりである。
右に対する判断
(一)弁護人山本新の控訴趣意書のうち
(い)第一点の一(刑の廃止)について。
口の島を含む北緯三十度以南北緯二十九度以北の南西諸島(以下単に南西諸島の特定地域と略称する。)が本件犯行の当時においては関税法の適用について外国とみなされていたところ、昭和二七年二月一一日以後においては、もはや外国とみなされることなく本邦の領土として取扱われることとなつた関係事実は、昭和二四年五月一四日法律第六五号による一部改正の関税法第一〇四条、昭和二四年五月二六日大蔵省令第三六号第一条の四、昭和二七年二月六日大蔵省令第五号による一部改正の右大蔵省令第三六号第一条の四、昭和二六年一一月二九日法律第二七一号による一部改正の関税法第一〇四条、昭和二七年四月七日政令第九九号の各公布施行の経過に徴して明らかである。論旨は、右は犯罪後の法令により刑の廃止があつた場合にあたるものと主張するのであるが、にわかに賛同し難い。関税法第七六条は、貨物の無免許輸出入を禁止し、同法第一〇四条は、本邦四島以外の領域中一定の地域を関税法の適用について当分の間外国とみなす旨を規定し、その外国とみなされる地域の範囲を省令(平和条約発効の日以後においては政令)の定めるところに委ねているのであり、従前外国とみなされていた南西諸島の特定地域は、前記昭和二十七年大蔵省令第五号の施行により、昭和二七年二月一一日から、もはや外国とみなされることなく、本邦の領域として取扱われることとなり、同日以後においては本邦と南西諸島の特定地域との間の交易は自由となつたのであるが、関税法による外国又は外国とみなされる地域と本邦との間の貨物の密輸出入禁遏の趣旨自体は、昭和二七年二月一一日の前後を通じ終始一貫してかわるところなく、前記大蔵省令の改正による地域の変更に伴う法律上の効果は、貨物の無免許輸出入の所為一般が、社会事情の変化に伴い、その禁遏処罰の実質的な理由と根拠とを失い、爾後の法令によつて刑の廃止が行われた場合とは、全くその趣を異にするものがあるのである。すなわち、前記昭和二七年大蔵省令第五号の施行により南西諸島の特定地域が、昭和二七年二月一一日以後においては、本邦の領域として取扱われることとなつた結果として、本邦と右の地域との間における貨物の無免許搬出搬入の所為が同日以後においては、もはや関税法第七六条違反の罪とならないものとなつたのではあるが、右の大蔵省令第五号は、既に関税法第七六条違反の罪として成立した、昭和二七年二月一一日以前の前同所為の処罰の点に関しては何ら干渉するところなく、ただ単に、関税法等の適用について、当分の間外国とみなされる地域を定めるものたるに止まり、右大蔵省令第五号による地域の変更は、関税法第七六条違反の罪の成立並びにその処罰の点に関する限り、昭和二七年二月一一日以後において発生する所為についてのみその適用があり、その以前において既に発生した所為については、何らの効果を及ぼすものではないと解するのが相当であり、従つて、所論のように、右大蔵省令等五号の施行により、本件所為について、刑の廃止があつたものということはできない。論旨は理由がない。
(ろ)第一点の二(大赦)について
被告人松永勝次に対する本件公訴事実のうち、食糧管理法違反(うどん、そうめんの無許可輸送)の点は、昭和二七年政令第一一七号大赦令第一条第八六号により赦免があつたものと解せられ、この点については同被告人に対し免訴の言渡をすべきであり、この点に関する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
(は)第二点の一(法令適用の誤)について、
関税法第七六条所定の貨物輸入の罪は、貨物の陸揚、又は本邦への貨物搬入に関し、貨物の陸揚と同視し得べき事実の完成によつて、既遂となるものと解すべく、原判決の認定によれば、被告人らは共謀の上、原判示口の島において原判示貨物を原判示大福丸に積載し有明海沖之島附近に到着した上、税関の免許を受けずして、発動機船三隻を使用し、同貨物の一部を佐賀県佐賀郡西与賀村相応に陸揚げし、残部を同所棧橋に到達させたというのであつて、棧橋に到達させた分については、本邦への貨物搬入に関し陸揚と同視し得べき事実の完成があつたものと認められるので、原判決が、本件所為をもつて関税法第七六条に定める貨物輸入の罪の既遂とし、同法条を適用処断したのは相当であつて、所論のように、法令適用の誤があるものとは認められない。論旨は理由がない。
(に)第二点の二(請求を受けない事件に対する審判)について、
被告人松永勝次に対する関税法違反被告事件の原審第一回公判(昭和二五年六月一二日)において、検察官は起訴状朗読の後、昭和二五年二月一七日附起訴状中公訴事実第一のうち、黒砂糖二、六五八斤の次に、「及牛皮二一一斤(この原価一二、九三五円相当)」を挿入する旨を述べた事実、その後検察官から右牛皮関係の事実について各種証拠の取調請求がなされた事実、右に対しては、被告人及び弁護人から何ら異議の申立がなされなかつた事実が記録に徴し明らかであり、以上の事実よりして、本件牛皮の密輸入についても適法な審判の請求があつたものと解するのが相当であり、起訴状に牛皮の陸揚に関する記載が欠けている一事をとらえて、牛皮の密輸入に関し、検察官にこれが審判請求の意思なく、審判の請求がなされなかつたものとする所論は採用の限りでない。原判決に、審判の請求をうけない事件について審判をした違法があるものとは認められない。論旨は理由がない。
(ほ)第三点(事実誤認)について、
原判決摘示の事実は、原判決挙示の証拠によつてこれを認定するのに十分であり、原判決に事実誤認の違反があるものとは認められない。論旨は理由がない。
(へ)第五点の一(没収に関する新旧法比照の遺脱)について、
原判決が、被告人松永勝次の関税法違反の罪につき昭和二五年法律第一一七号による一部改正前の関税法と右改正後の関税法との新旧法を比照してその軽い旧法の刑に従つて処断したことは、原判決の法令適用の項に明示するとおりであり、これに引続き没収に関し関税法第八三条第一項の適用を示しているところよりすれば、右法条も前同様行為時法たる前記改正前の旧関税法第八三条を適用する趣旨であると解せられるのみならず、本件没収に関する限り、関税法第八三条第一項の規定は前記改正の前後を通じ実質的には何らの変更も加えられていないので、仮に改正後の新法を適用したものと仮定しても、判決には何らの影響がないこと明らかである。論旨は理由がない。
(と)第五点の二(没収に関する法令適用の誤、若しくは理由のくいちがい)について、
関税法第八三条第一項にいう犯人とは、当該被告人及び同被告人と共犯の関係にある者を含むものと解すべく、原判決による没収貨物が、被告人松永勝次と共犯の関係にある原判示福地実、同古賀善保、同沖縄人上原松一ら数名の所有にかかるものであることは記録上明白であるので、原判決の没収に、所論のような法令適用の誤、若しくは理由のくいちがいはない。論旨は理由がない。
(ち)第五点の三(換価金没収の違法)について、
没収することができる押収物につき、刑訴第一二二条による換価処分があり、その代価が保管されている場合に、関税法第八三条第一項によりその代価を没収することは違法でない。けだし、その代価は、没収の関係においては、押収物と同一視して法律上何らの支障がないからである。代価を没収した原判決に法令の解釈適用を誤まつた違法はなく、論旨は理由がない。
(り)第五点の四(没収に関する理由不備)について、
没収に関する原判決の主文と、事実理由、並びに法律適用とをそれぞれ対照すれば、原判決主文掲記の没収物(代価)が、原判示関税法第七六条第一項違反の罪にかかるものであり、且つ、被告人松永勝次と共犯の関係にある原判示の前記の者らの所有に属し、関税法第八三条第一項所定の要件を具備するものであることがおのずから明白であるので、没収の点に関し、原判決に、所論のような理由不備の違法があるものとは認められない。ただ、生牛皮に関し、原判決摘示事実には二一一斤とあり、主文には五頭分と掲記されていること論旨指摘のとおりであるが、主文掲記の生牛皮五頭分が、原判決摘示事実の二一一斤の生牛皮に該当するものであることは、告発書添付の犯則物件鑑定書、石井龍猪提出の保管請書、生牛皮換価処分決定書、検察事務官中橋博提出の牛皮換価代金保管票の謄本の各記載に照らして明白であるので、生牛皮の換価代金没収の点に関し原判決に何ら違法の点はない。論旨は採用の限りでない。
(二)弁護人今泉三郎、同北川定務連名の控訴趣意書(被告福地実、同古賀善保関係)第一、二点、弁護人長崎祐三の控訴趣意書(被告人古賀善保、同古賀賢次関係)第二点(いずれも事実誤認)について、
原判決摘示の事実、殊に被告人らにおいて、原判示南西諸島口の島方面への貨物の無免許搬出に関する認識があつたこと、並びに、同じく同島方面からする本邦への貨物の無免許搬入に関する認識があつたことは、原判決の挙示引用にかかる証拠によつて、これを認定するのに十分であり、証拠の証明力に関する原審裁判官の判断に、経験法則の違背等特に不合理とすべき事由なく、原判決に所論のような事実誤認の違法があるものとは認められない。
(三)弁護人長崎祐三の控訴趣意書(被告人古賀善保、同古賀善次関係)第一点(法令適用の誤)について、
右に対する判断は、前記(一)の(い)弁護人山本新の控訴趣意書第一点の一(刑の廃止)に対する判断と同一であるからこれをここに引用する。論旨は理由がない。
(四)弁護人今泉三郎、同北川定務の控訴趣意書第三点、弁護人長崎祐三の控訴趣意第三点、(いずれも量刑不当)について、記録並びに証拠に現われた各般の事情に照らせば、被告人松永勝次同福地実、同古賀善保に対する原判決の量刑はいずれも過当であると認められ、この点に関する論旨はいずれも理由があり、原判決のうち、同被告人ら三名に関する部分はいずれも破棄を免れない。
以上の理由により、被告人松永勝次に関しては、その量刑不当の点に関する判断を省略し、刑訴第三九七条第三八三条第二号により被告人福地実、同古賀善保に関しては、刑訴第三九七条第三八一条により原判決のうち、同被告人ら三名に関する部分を破棄し、刑訴第四〇〇条但書に従い、本件について更に判決する。
被告人古賀賢次に関しては、原判決を破棄すべき事由がないので刑訴第三九六条により、同被告人の本件控訴を棄却すべきものとする。被告人松永勝次に対する本件控訴事実のうち、食糧管理法違反(うどん、そうめんの無許可輸送)の点については、原判決があつた後昭和二七年四月二八日政令第一一七号大赦令第一条第八六号により大赦があつたので、この点に関しては、刑訴第四〇四条第三三七条第三号に従い免訴の言渡をすべきものとする。
被告人松永勝次、同福地実、同古賀善保に対する各関税法違反の犯罪事実は、いずれも原判決摘示のとおりであつて、法令の適用は次に示すとおりである。
各関税法(刑法第六条第一〇条に従い、昭和二五年法律第一一七号による一部改正前の軽い旧法)第七六条第一項、刑法第六〇条(各懲役刑選択)
併合罪の関係につき、刑法第四五条前段第四七条第一〇条
没収の点につき、各前記旧関税法第八三条第一項
訴訟費用の点につき、刑訴第一八一条第一項、第一八二条
以上の理由によりそれぞれ主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 筒井義彦 裁判官 柳原幸雄 裁判官 岡林次郎)
弁護人山本新の控訴趣意
第一、原判決は判示第一については刑の廃止により判示第二については大赦令により各免訴の言渡ありて可然即ち原判決判示第一((一)及(二))は刑事訴訟法第三百八十三条第二号前段第三百三十七条第二号により原判決判示第二は同法第三百八十三条第二号後段第二百三十七条第三号により各免訴の判決可有之ものと思料する。
一、原判決判示第一は被告人松永勝次が他の数名と共謀の上南西諸島口の島に昆布等を日本より密輸出し之を同島で砂糖と物交の上日本に密輸入しやうと企て、(一)昭和二十五年一月十五日昆布一千貫を鮮魚運搬船大福丸に積込み税関の免許を受けずして博多港を出帆し以て貨物を密輸出し、(二)同月十七日右口の島に到着し前記昆布を白砂糖及び黒砂糖と物交して之を右大福丸に積載し更に沖縄人上原松一等と共謀して同人等所有の白砂糖及び黒砂糖並に生牛皮をも右船に積込み同月二十二日口の島を出帆し同月二十五日早朝有明海沖の島附近に到着税関の免許を受けずして同日夜及び翌二十六日早朝右砂糖及び生牛皮を佐賀郡西与賀村相応に陸揚げ或は棧橋に到着せしめて貨物を密輸入したとの趣旨に事実を認定し(一)(二)に対し各関税法(昭和二十五年法律第百十七号による改正前)第七十六条第一項刑法第六十条を適用処断した。而して関税法に所謂輸出とは海上に在つては目的の物品を日本領土外に仕向けられた船舶に積載することを謂ひ(昭和二三年(れ)第四五〇号昭二三、八、五第一小法廷判決)所謂輸入とは海上よりするときは船舶より陸揚して外国貨物を我が国内に運び入るる行為を謂ふ(明治四〇年れ第六八七号明四〇、九、二七第一刑事部判決)のであるから輸出輸入ともに従来移出移入と判然区別せられ何れも外国への搬出行為、外国よりの搬入行為を指すものであること一点の疑もないところであつて恐らく原判決亦之を否定するものではないであらう。随て本来ならば右口の島は我が国領土であり外国でないのだから本件貨物の搬出入行為は関税法違反に問擬せらるべきものでないこと之亦火を見るよりも明かである。
然るに昭和二十一年五月十七日勅令第二七七号関税法の罰則等の特例に関する勅令第十一条は本州北海道四国九州及び命令で定めるその附属島嶼以外の地域はその地域の帰属すべき国が決定されるまでの間これを外国と看做すと規定し同日大蔵省令第六四号関税法の罰則等の特例に関する勅令の施行に関する省令第三条第四号は北緯三十度以南の南西諸島(口の島を含む)以外の島嶼を附属島嶼としたので右口の島を含み之以南は外国と看做されることになつたのである。而して右勅令は後廃止せられて関税法に吸収せられ右第十一条は同法第百四条に襲から右大蔵省令は関税法第百四条の規定に基き附属島しよを定める省令(昭和二十三年大蔵省令第五九号)次いで関税法第百四条関税定率法第十二条及び噸税法第八条の規定に基き附属島嶼を定める等の省令(昭和二十四年大蔵省令第三十六号)と変つたが口の島を含む北緯三十度以南の南西諸島は依然外国と看做されることに変りはなかつた。随て原判決はその適用法条にこそ示さないが関税法第百四条及び右昭和二十四年大蔵省令第三十六号第一条第四号に則り前記口の島を外国と看做して本件を取扱ひ関税法第七十六条第一項を適用したこと毫も疑ない。
ところが原判決の為された昭和二十六年十月十八日以後に於て右第三十六号大蔵省令は改正せられて同令第一条第四号は北緯二十九度以南の南西諸島と改められた。随て従来外国と看做されていた北緯二十九度と北緯三十度との間の地域は昭和二十七年二月六日以来原則に戻つて最早外国と看做されないことになつたのである。蓋し右改正は昭和二十七年二月六日大蔵省令第五号によつて為されたからである。而して今地図上で調査するに右口の島は明瞭に北緯二十九度より北に在つて以南になく特に証明をまつ迄もないことである。然も此のことは昭和二十六年十二月五日附連合国最高司令官覚書若干の外郭地域を政治上行政上日本から分離する件に北緯二十九度から北緯三十度までの間に在る諸島が日本として定義された地域に含まれるとあり同覚書に伴う鹿児島県大島郡十島村に関する暫定措置に関する政令(昭二六、一二、二一政令第三八〇号)及び同政令に基く幾多の政令に「鹿児島県大島郡十島村の区域で北緯二十九度から北緯三十度までの間にあるもの(口之島を含む)」とせられてゐるに徴しても明であつて今や口の島は日本領土日本国内であつて外国でなく又外国と看做されるものでもないことが確定したのである。
然らば最早同島への貨物搬出、同島よりの貨物搬入は関税法上の輸出輸入となるものではない。即ち本件については当時は罪となつたが現在は罪とならないのである。換言すれば口の島への本件行為は第一審判決後の法令により刑が廃止されたことになる。而して関税法は特殊な一時的事情の為に実施につき一定時期を限つて制定せられた限時法でもなく又所謂経済統制法規とも異り(関税法の罰則等の特例に関する勅令は多少経済統制法規的色彩を帯びてゐた)更に又罰則が廃止された後に於てもその廃止前の違反行為については依然その罰則を適用する旨の規定もない。随て今や本件は明かに免訴の判決可有之ものと思料する。而して斯るが故に昭和二十七年政令第二七号大赦令は関税法の本件の如き事案を赦免の対象としなかつたものと考へられる。蓋し右大赦令は物価統制令等については統制が解かれた後と雖も之は「刑の廃止」に当らない(昭和二十三年(れ)第八〇〇号昭二五、一〇、二大法廷判決)から特に赦免するも本件の如きは当然「刑の廃止」に該当するを以て右大赦令による赦免の必要なかりしによるものと判断せられるからである。
二、原判決判示第二は被告人松永勝次が法定の除外事由なくして昭和二十四年九月二十七日頃長崎県南高来郡西有家村海岸から鹿児島県川辺郡笠沙町沖合まで木帆船吉詳丸に「うどん」二十六貫及び「そうめん」二百十貫を積載して海上輸送をしたとの事実を認定して有罪とし食糧管理法第九条第一項第三十一条等を適用処断したのであるが食糧管理法第三十一条違反の罪は米穀大麦裸麦米穀粉小麦粉又は輸入された澱粉類に関するものを除き昭和二十七年政令第一一七号大赦令第一条第八十六号によつて赦免せられたので本件は同令によつて免訴の言渡可有之ものと思料する。蓋し本件「うどん」「そうめん」は食料管理法施行令第一条第四号の小麦粉を主たる原料として製造しためん類に該当し右赦免より除外された食糧の何れにも該当せざること同法第二条同法施行令第一条の規定により明かである